魚眼日記

その女、七転八倒につき

11月17日(火)あらくれちゃん

「僕は21時半から歌います」

「行くよ!」


コヤミは即返信した



彼の歌を聞いたことがなかったしボソボソ喋る彼に歌えるとは思えなかった


ありえない人やありえない選択はコヤミの興味をひく


いつだっておもしろい


中途半端は心に突き刺さらない



クリエを15時に上がって21時までの間、本を読んで待った


徳田秋声の『あらくれ』


お島という女

実母から虐待を受け養家にもらわれて育つ。

豚のように忌み嫌っている作太郎と結婚させられそうなったり

養母の不倫相手から手を出されたりする。

お島は叫ぶ

『畜生人を見損なってやがるんだ』

鶴さんと結婚して初めて嫉妬をおぼえたところで20:00


やばい。おもしれぇ。


どうしよう。今夜行くのやめようか


コヤミの脳内で虫が孵化し始める


「風邪引いたって言えよ」
いや治ったし


「寝ちゃったって言えよ」
いや冴えてるし


「急用が入ったって言えよ」
いや暇だし



殺虫剤を鼻から吸い込んで六本木へ向かった


東京タワーのネオンに向かってひたすら歩く


BRAVE BAR


ドアを開けると薄暗い中女の子が歌ってた


「皆、風邪で来られないって」


彼はコヤミをあつく歓迎した


さっき殺した虫が鼻から落ちていった


「あー緊張する」
彼は彼女の次に歌う


コヤミは彼に自分を重ねて喜んだ


MCが始まって彼がボソボソ喋り出した


コヤミは笑った

こいつに歌えるのか?


彼は急に歌い出すと急に彼じゃなくなった



お島の台詞がコヤミに突き刺さる


『畜生人を見損なってやがるんだ』


ああ



「どうだった?」
「まるで別人だね」
「それはお互い様でしょ」



ああ
してやられた



コヤミは帰りの電車で再び『あらくれ』をむさぼった。
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  1. 2009/11/18(水) 22:07:13|
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11月4日(水)せつなちゃん

「マリ・・・・またいつか連絡しなさい」


マスターの気持ちはわかりすぎるほど分かってた



本番が終わって3日後

コヤミはありの巣をクビになった


しがみつく理由は微塵もない


毎度のように来るべき時が来ただけ



5年前

コヤミは一番似合わない場所へ行こうと思った


色メガネを外して出家のごとく踏み込めば




女がそこで働く理由は様々で

男がそこへ通う理由も様々だ


女の武器はさまざまで

男の評価もさまざまだ



面白い世界だった


ありの巣は4番目の場所




しがみつく理由は微塵もない


だけどさみしかった

初めて「ああ」と思った




こういう気持ちを覚えておこう
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  1. 2009/11/04(水) 23:37:31|
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